The Art Pepper Quartet
·アート・ペッパーの最高に楽しい「ベサメ・ムーチョ」を収録した大名盤!
白人最高のアルト奏者の一人アート・ペッパーはその生涯の大半を麻薬によって浪費してしまいました。1955年以降60年までに吹き込まれたアルバムの質の高さからその後10年以上を刑務所との往復ですごしてしまったことは誠に残念です。75年の復帰作を聴くと、前とは異なりエモーショナルでハードな奏法に変わっています。特にヴィッレジ・ヴァンガードのライブは壮絶です。日本へは77年カル・ジェイダーの一員として来日しましたが、事前に知らされていなかったため一部のファンが聴けたにとどまりました。しかしその演奏は今でも語りぐさであります。僕は残念ながらペッパーの生は聴かずに終わってしまいました。その後78年~81年まで毎年来日しています。
ところでペッパーのプレイはデビューから60年ごろまでと70年代の復帰以降ではまるで異なると言われています。そのためファンも前期派と後期派に分かれます。確かに後期のエモーショナルなプレイも捨てがたいですが、僕は前期の繊細で色気のある音色のペッパーが好きです。
このアルバムは前期のペッパーで特に「ベサメ・ムーチョ」のプレイで名高いです。ペッパーのアルトには何故かラテン・ナンバーが似合います。有名なオメガ・セッションでもこの曲をはじめラテンを何曲も演奏していました。この時期のペッパーは生涯で一番好調な時で、ソロは優雅で溢れ出るアイデアを押さえきれないほどメロディックです。1曲あたりの収録時間は比較的短めですが、かえってぴしっとしまった演奏になっています。
曲は2・5を抜かしてペッパーのオリジナルです。
アート・ペッパーのオリジナルはどれもメロディが美しくさすがペッパーと言いたいです。3は当時の妻に捧げた曲ですが、二人の関係は悲しい結末が待っていました。6のブルースは「モダンアート」のオープニングに通 じる哀愁の漂う演奏です。「カミン・ホーム」の作者ベン・タッカーのベースソロも聴けます。 それでも「ベサメ・ムーチョ」が群を抜いて素晴らしいです。ペッパーらしいリリカルで気品に満ちたプレイです。この曲のベストプレイといっても過言ではないでしょう。ペッパーのアルトの音色はこの当時実に色っぽい。そして明るく爽やかなウエスト・コーストのようでです。がそれだけではなくどこかに影のある音色なのです。何かしら危うさを感じてしまいます。そこが彼の魅力です。この魅力が最大に詰まった56年の代表作がこのタンパ盤です。もう1枚の「The Marty Paich Quartet Featuring Art Pepper」もぜひ聴いてください。
なお一言ピアノのラス・フリーマンの好サポートもこのアルバムを価値あるものにしています。チェット・ベイカーとのコラボレーションも見事ですが、ペッパーとの相性も抜群です。
最後にペッパーの自伝「ストレート・ライフ」この赤裸々な告白を是非読んで欲しいのですが、現在絶版なのが実に残念、ぜひ再版して欲しいと思います。
Art pepper(as) Russ Freeman(p) Ben Tucker(b) Gary Frommer(ds)
recoeded 11/25/1956
- Art’s Opus
- I Surrender Dear
- Diane
- Pepper Pot
- Besame Mucho
- Blues At Twilight
- Val’s Pal
- Pepper Pot(alternate)
- Blues At Twilight(alternate)
- Val’s Pal(take 1)
- Val’s Pal(take 4)
- Val’s Pal(take 5)
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