Bennie Green / Walking Down

トロンボニスト、ベニー・グリーンのプレスティッジ時代の隠れ盤です。

ベニー・グリーンの魅力は親しみのある語り口です。ＪＪジョンソンみたいに洗練されたスマートさはありませんが、聴きやすくユーモアと歌心溢れるプレイでファンを魅了しました。彼のスタイルはスイングでもモダンでもない不可思議な魅力を持っています。なんと言って良いかわからないですが、標準語ではない方言のアドリブとでも表現したいような朴訥で心温まるものがあります。ただしトロンボーンをならすテクニックはすばらしいです。

本アルバムだがこれはもう何といっても冒頭の２曲にトドメを刺します。アナログ時代ならＡ面のレコードです。メンバーはベニー・グリーンを抜かしてあまり有名なプレーヤーはいない。ベイシー楽団のエリック・ディクソンがテナー、そのほかドラムのビル・イングリッシュが少しは名前を知られている程度です。ベニー・グリーンは彼らを従えて存分にブローしています。メンバー構成からエリック・ディクソンのグループにベニー・グリーンが客演したようにみえます。知名度からベニー・グリーンのリーダー・アルバムになったみたいです。

中でもエリック・ディクソンの渋いテナーが存分に聴けるのがこのアルバムのもう一つの魅力です。実は彼を僕が初めて聴いたのはクインシー・ジョーンズのインパルス盤「Quintessence」でした。ここでのエリック・ディクソンのテナーが実に良かった。たぶん彼のリーダー・アルバムは１枚だけ、だからこのアルバムは貴重です。（彼のソロはルーレット時代のベイシーで聴かれます）

1はリチャード・カンペンター作曲。もちろんマイルスの演奏で有名です。なんとなくメッセンジャーズ風なイントロで始まり、ジャムセッション的な演奏です。最初はアップテンポでピアノ・トロンボーン・テナーとソロが受け渡されドラムブレイクの後テンポを落としてテナー・トロンボーン・ピアノとソロが続きます。特にピアノソロの後に出てくるディクソンのソロが情緒たっぷりで素晴らしいです。グリーンも同じくこちらのソロが良いです。高らかに歌い上げています。最後はブルージーにテーマを吹いてこの素晴らしい演奏が終わります。

2はサミー・カーンの「去年の夏」。ミディアム・スローでプレイする前半が断然素晴らしいです。ベニー・グリーンのオブリガードにのってエリック・ディクソンが素晴らしいソロを取ります。フレーズを短く切らないでメロディックなソロです。スピーカーに耳を近づけると彼の息づかいが聞こえてくるようです。ベニー・グリーンもエリック・ディクソンに触発されて実に切々としたソロを取ります。ピアノブレイクの後テンポをあげて今度はベニー・グリーンからソロを取りますが二人とも後半はソロが少し流れ気味。前半の緊張感が若干薄らいでいます。それでもエモーショナルなソロです。

3～5ですが白状するとアナログ時代ほとんど聴いたことがありませんでした。それくらいＡ面が素晴らしいです。今回通しで聴いてみましたが、やはり後半の3曲はちょっと甘く無難なプレイです。

3はベニー・グリーンのオリジナル。タイトルからすると自分のことでしょう。
4は再びサミー・カーンの曲。
5はガーシュインで有名な曲です。

二人とも相変わらすメロディックなソロで水準点以上ですが前半の素晴らしさでちょっとかすんでしまいます。なお後半ピアノが結構小粋なソロを取っています。

B級と言われればそれまでですが、コレクションに一枚あっても良いアルバムだと思います。

Bennie Green(tb) Eric Dixon(ts) Lloyd Mayers(p) Sonny Wellesley(b) Bill English(ds)
recorded 6/29/1956

1. Walking (Down)
2. The Things We Did Last Summer
3. East Of The Little Big Horn
4. It’s You Or No More
5. But Not For Me